
上杉隆(ジャーナリスト/NoBorderNewsアンカー)
皇室典範を議論するはずの生配信で、ゲストの竹田恒泰氏は突如テーマと無関係の東京五輪疑惑を持ち出し、筆者に「謝罪」を求めた──。
先日、NoBorderNewsに竹田恒泰氏をお迎えした。テーマは、皇位継承と皇室典範をめぐる制度論議である。
ところが、番組が始まってすぐに竹田氏はテーマとは無関係の話題──東京五輪招致をめぐる一連の疑惑と、そこで筆者が長年取材を続けてきた同氏の父・竹田恒和元JOC会長の件──を持ち出し、筆者に対して意味不明の「謝罪」を要求してきたのだ。
時間制約のあるライブ配信のアンカーという立場上、筆者は番組の進行を優先せざるを得ず、その場では反論の時間を取ることをしなかった。本稿は、その積み残しに対する事実関係に基づいた具体的な回答である。
1.竹田恒泰氏に「謝罪」する理由はない
まず確認しておきたいのは、筆者はこれまで東京五輪カルテルの取材において、竹田恒泰氏を取材対象としたことは一度もないということだ。もちろん取材依頼を行った事実もない。JOC(日本オリンピック委員会)にも、東京五輪招致委員会にも無関係の同氏に対し、聞くべき質問もなければ、答える事案もないのは当然のことである。
よって、ジャーナリズムの原則を持ち出すまでもなく、取材対象でもない人物に対して記者が「謝罪」を行う理由は存在しない。したがって、筆者が竹田恒泰氏に謝ることはない。この点はまず、明確に申し上げておきたい。
2.筆者が長年取材を申し込んできたのは、父・竹田恒和氏である
一方で、当時のJOC会長・竹田恒和氏に対しては、筆者は数年にわたり継続的に取材を申し込んできた。しかし、恒和氏からは一度も応諾の返答をいただいたことはない。日程調整という名目のまま、いまなお時間だけが経過している状態である。
偶然お会いしたことはある。仙石山にある、電通元専務・高橋治之氏(後に東京五輪をめぐる汚職事件で逮捕・起訴)と共同で経営していたとされるステーキ店でお見かけしたのだ。しかし、その時はプライベートな時間帯のようにお見受けしたため、筆者はお声がけを控えた。取材者といえども、対象者のプライバシーは尊重すべきだと考えるからだ。
3.過去の経緯と、恩師・小林節氏の仲介
数年前、竹田恒泰氏が筆者に対してSNS等で繰り返し同様の事案で発信を行っていた時期があった。この様子を見かねた小林節・慶應義塾大学名誉教授(竹田氏の大学院時代の指導教授であり、筆者にとっても秘書時代の30年前からの敬愛する先輩言論人である)が、竹田氏に対し「上杉氏に対して失礼な振る舞いは慎むように。話したいことがあるなら一緒に番組に出ればよい」と諫めてくださった経緯がある。
その後、しばらくは静かな状態が続いていたが、今回、皇室典範という国家的テーマを議論するはずのスタジオで、竹田氏はご自身とは無関係の五輪疑惑を、番組冒頭から持ち出されたのだ。小林氏の戒めを忘れたのだろうか。
テレビ番組に多数出演されている竹田氏であれば、生放送でテーマ以外の話を振るのはルール違反であることは十分ご承知のはずである。生配信のアンカーが本題以外に時間を割けず、反論しにくい立場にあることを踏まえての意図的な振る舞いだとすれば、残念と言わざるを得ない。とはいえ、時間があれば、いくらでも説明できることだ。よって、今回、筆を執った次第だ。
4.父・恒和氏に対する取材の根拠
念のため、事実関係を整理しておきたい。
竹田恒和氏をめぐっては、フランス司法当局が2016年以降、東京五輪招致に関する不透明な資金の流れをめぐって捜査を継続してきた。そのためかどうかは疑念にとどまるも、竹田恒和氏は2019年、JOC会長職を辞任している。
その後、東京五輪・パラリンピック大会をめぐる汚職・談合事件では、電通元専務の高橋治之理事をはじめ、大会組織委員会や広告代理店の関係者が東京地検特捜部により相次いで逮捕・起訴された。筆者が父の恒和氏に取材を申し込んできたのは、こうした一連の捜査対象となった当事者本人から、直接、事実関係を伺いたかったからにほかならない。
ジャーナリズムの基本は、当事者への取材であり、疑惑を報じる際にはその当事者の反論権を確保することにある。筆者でいえば、無関係の人物や周辺コメンテーターの発言だけで番組を組み立てるような日本のテレビ局のようなことはこの30年間一度も行なってこなかったし、当然ながら、今後も行うつもりはない。だからこそ、無関係の恒泰氏ではなく、当事者である恒和氏本人にお話を伺いたいのである。
そもそも、恒和氏が無実であるならば、堂々と取材に応じ、ご自身の言葉で説明されればよい、それだけの話ではないのか。それが公人の務めであるし、無関係の息子が真相解明の邪魔をしているのを知っているのならば、親として注意のひとつをしてもいいくらいだろう。
5.無関係の人物に語らせる「日本型コメンテーター」構造
テレビや新聞など日本のメディアでは、当事者ではない人物にコメントを求め、それをもって議論を構成する慣行が根強く残っている。世界的にはあり得ないことであり、米メディア出身の筆者からすれば、何年経っても違和感を拭えない。
ワイドショーの解説者、タレント、身内の代弁者、別分野の識者──こうした構造の中で、当事者本人は矢面に立たずに済み、周辺の声だけが独り歩きしていく。
竹田恒泰氏もまた、こうした「日本型コメンテーター」の作法に慣れた方の一人なのかもしれない。だとすれば、筆者が「無関係の御子息に謝罪する必要はない」と申し上げる意味を、直ちにご理解いただくのは難しいかもしれない。しかし、それでも言い続けなければならない。取材対象は当事者本人であり、仮に、筆者が間違いを犯して、訂正・謝罪をする必要があれば、それは無関係の竹田恒泰氏ではなく、竹田恒和氏その人である。
6.父親思いの竹田恒泰氏へ、一つのお願い
竹田氏は、番組でのやり取りを見る限り、父上を深く思う優しい方だとお見受けする。父を守ろうとする気持ちが先行し、それが非論理的な行動を誘発したのだろうことは想像に難くない。
その父上思いの竹田氏にこそ、ひとつお願いがある。歴代のJOC会長として初めて報酬を受け取った公人でもある父上・竹田恒和氏に対し、五輪招致および関連疑惑について、筆者、あるいはNoBorderNews取材班の取材にお応えいただけるよう、お伝えいただけないだろうか。
当事者による当事者のための説明の場を、公正な条件でご用意することを、筆者は約束する。さらに、五輪ではなく、竹田恒泰氏ご本人におかれても、皇室典範をテーマとした議論の続きに、いつでも番組にお越しいただきたい。
番組の編集責任者である筆者は、テーマに沿った真摯な議論であれば、いつでも歓迎する者である。
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