
取材・執筆 上杉隆+NoBorderNews 独立特別調査取材班
一本の共同通信配信記事が起こした連鎖
2026年3月3日、金融記者クラブのブリーフィングを受けた共同通信が一本の記事を配信した。サナエトークン問題。その中に一見無害にみえるが、実は悪意に満ちた一文が埋め込まれていた。
「通常、発行には暗号資産交換業者として登録が必要だが、運営に携わったとされる企業の登録が確認できていないことも判明」(共同通信)
配信直後、産経新聞、サンスポ、沖縄タイムス、CoinPostはこの一文をほぼそのまま転載した。テレビ各社も同様だった。オールドメディアはこぞってこの表現でそれぞれのネット媒体で報じた。さらに翌朝(4日)の紙面には「違法性の疑い」という見出しが躍るのだった。
しかし、この一文には重大な法的誤りが含まれていた。同時に、もう一つの深刻な問題も含まれていた。ほぼすべてのオールドメディアの記事が、当事者の一方——プロジェクト運営者・溝口勇児氏サイド——への取材を行わず、政府・官庁側・首相側の情報のみで組み立てられていたことだ。
これはジャーナリズムの基本原則である「双方への取材」の完全な欠落であり、「官報複合体」特有の典型的な日本型の官製報道の構造だった。
「官報複合体」——上杉隆の造語、牧野洋の書
まず用語の来歴を正確に記しておく。「官報複合体」は、筆者・上杉隆が2001年、ニューヨーク・タイムズ東京支局勤務時代に着想し、その後のジャーナリスト活動の中で使い始めた造語である。欧米ジャーナリズムの取材独立原則を間近で学ぶ中で、日本の「官(政)・報」が一体化した情報システムを表現するために生まれた概念だ。
この言葉が広く知られるようになったのは、2012年に牧野洋(ジャーナリスト)が同名の著書『官報複合体——権力と一体化する新聞の大罪』(講談社)を上梓してからである。牧野はその書の中で、上杉の命名した概念を明示的に引き継ぎ、記者クラブを通じた官・メディアの癒着構造を系統的に検証した。
牧野は「記者クラブ中心の報道は『権力の動きを正確に伝える』という意味では正確」としつつも、それが本質的に「権力の代弁者報道」であり調査報道を圧殺する構造を持つと指摘した(中央大学リポジトリ掲載論文参照)。「調査報道の軽視」「匿名の跋扈」「記者クラブの存在」——この三点を日本ジャーナリズムの核心的問題として提示した牧野の分析と指摘は、時を超えて、今回のサナエトークン報道においてそのまま現実の姿として現れた。
誤報の核心——「発行」と「交換業」は別物だ
資金決済法の条文を読めば、問題はすぐに明らかになる。
同法第2条第7項が「暗号資産交換業」と定義するのは、暗号資産の「売買・交換・媒介・管理」を業として行うことである。トークンを「発行」する行為は、同条項のどの号にも列挙されていない。
たとえば、水越法律事務所の分析は明快だ。「文理上、トークンを『発行』する行為そのものは、同項各号のいずれにも直接列挙されていません。したがって、発行行為それ自体が直ちに暗号資産交換業に該当するとは解されません」(mizukoshi.org/sanaet)。
つまり、共同通信の記事「発行には登録が必要」という表現は、資金決済法の文理解釈に反する明確な誤りである。
正確に言えば、問題となり得るのは「発行後の販売・交換行為」だ。サナエトークンの場合、全供給量の65%を占めるリザーブを運営側が継続的にDEX(分散型取引所)で売却する計画が問題視されるのであって、「発行そのもの」ではない。これは暗号資産法の基礎知識があれば判別できる区別だ。
正確に報じられた事実——フェアな評価として
しかし、ジャーナリズムは公平でなければならない。誤報だけでなく、各メディアが正確に伝えた事実もクレジットをつけて記録しておく。
✅ 正確だった報道内容
●「登録された暗号資産交換業者28社のいずれもSANAE TOKENを取り扱っていない」 金融庁が国会答弁で確認(TBS NEWS DIG / 財務金融委員会動画)●「高市首相は関与を全面否定」 高市首相自身の3月2日Xポスト()●「SANAETはSolana上のDEXでのみ取引可能であること」 公式サイト・オンチェーンデータ()●「チームサナエ後援会がトークン発行を賛同リツイートし後に削除した事実」 ●「資金決済法違反の(断定でなく)」 水越法律事務所・smart-moneylife等の法律専門家分析●「金融庁が調査を(断定ではなく)」 CoinPostの「調査検討か=報道」という慎重な表記()●「パブリシティ権侵害の疑いがある」 複数法律専門家が指摘
















